煙草、クローブ、火がつくる香り
ガラムを吸う人が近くにいると、姿を見る前に気づくことがあります。
普通の煙草とは少し違う、甘く、辛く、どこか薬草を思わせる香り。乾いた木のようでもあり、古い家具や革製品のようでもある。その奥には、砂糖を焦がしたような濃い甘さが潜んでいます。
煙草の匂いであることは分かるのに、ひとことで「煙草臭い」と片づけにくい。香水やお香のように、いくつもの香りが重なって感じられるからでしょう。
ガラムを入口に、インドネシアのクローブ煙草、クレテックの香りを考えてみます。
火の中で、クローブがはじける
クレテックは、刻んだ煙草にクローブを加えてつくられます。火をつけるとクローブがぱちぱちと小さな音を立てることから、その音を表す言葉が名前になったとされています。[1]
クローブは、日本では丁子とも呼ばれる香辛料です。
焼き菓子やチャイ、煮込み料理に使われることもありますが、甘いだけの香りではありません。鼻の奥へ届く鋭さがあり、木質的で、わずかに痺れるような感覚も持っています。
その香りを特徴づける成分の一つが、ユージノールです。クレテックからもユージノールをはじめとするクローブ由来の成分が検出されています。[2]
しかしながら、ガラムの香りはクローブそのものではありません。
火が入ることで、乾いた葉の香りは煙へ変わり、甘さには焦げが混じります。クローブの明るい刺激も、煙草の苦さや灰の匂いに包まれていく。
香料をきれいに並べる香水とは反対に、火は素材を壊しながら、別の香りをつくります。
香水に似ている時間
香水は、肌にのせた瞬間から少しずつ表情を変えていきます。
ガラムの煙にも、それに似た時間があります。
最初に届くのは、クローブの甘く刺激的な香り。近づくと、煙草の葉や焦げた木の重さが加わります。そして火が消えたあとには、衣服や室内に、少し温度の下がった甘さが残る。
ただし、似ているのは香りの変化であって、性質ではありません。クローブが加わり、甘く香ったとしても、煙草の煙が無害になるわけではない。クレテックにも、通常の煙草と同じく健康上の重大な危険があります。[3]
それでも私たちの嗅覚は、害があるかどうかとは別に、そこに含まれる香りの複雑さを感じ取ります。
甘い。けれど苦い。
華やかでありながら、影を感じる。
親しみやすい香辛料のはずなのに、どこか異国の夜を思わせる。
相反するものが同じ煙の中にあるから、ガラムは単なる煙草の匂いではなく、ひとつの香りとして記憶されるのかもしれません。
香水は、その人が選んで身につけます。
ガラムの香りは、火をつけた瞬間に生まれ、煙となって身体の外へ広がっていく。そしてときには、本人より少し先に、部屋へ入ってくるのです。
参考文献・資料
[1]J. M. A. Picanço et al., “Uncovering cloves: characterization of volatile compounds,” 2022. クレテックの名称と燃焼時の音、クローブを含む構成について。
[2]J. E. Cohen et al., “Eugenol, menthol and other flavour chemicals in kreteks and ‘white’ cigarettes purchased in Indonesia,” Tobacco Control, 2023–2024. クレテックに含まれるユージノールなどの香味成分について。
[3]D. Nuryunarsih et al., “Health Risks of Kretek Cigarettes: A Systematic Review,” 2021. クレテックの健康リスクに関する系統的レビュー。
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